SNSはなぜ人を過激化させるのか - 読書メモ

こんにちは。今回は計算社会科学のお話です。と言ってみたところでなにそれ?って感じでしょうね。

SNS の分析などの、計算機で社会を扱う学問が計算社会科学です。社会科学、心理学、計算機科学などの学際的な分野として知られています。

その手法を使って、「どうして人々は争ってしまうのだろう?特に、ソーシャルメディアでは」という問いに答えたのが、この一冊です。

「争わないためには何ができるのだろう?ぼくらは、そしてプラットフォーマーは」という問いにも答えています。つまり、問題提起だけでなく解決パートもある素晴らしい本なのです。是非読んでみてくださいね。

ネタバレありなので注意してください。

ソーシャルメディア・プリズム - クリス・ベイル

『ソーシャルメディア・プリズム SNS はなぜヒトを過激にするのか?』

  • 出版日付: 2022 年 06 月 03 日
  • 著者: クリス・ベイル
  • 訳者: 松井信彦
  • 出版社: みすず書房
  • ISBN: 9784622090830
  • ページ数: 240

概要

この書籍は、ソーシャルメディアが人々の意見をどのように先鋭化させるのかという問題について考察しています。著者は、エコーチェンバー効果、つまり、自分と似た意見ばかりが目に入ることで意見が極端になるという説を検証するため、大規模なフィールド実験を行いました。その結果、意外にも、対立意見に触れることで、人々は自身の意見をより強固なものにしてしまうということが明らかになりました。

著者は、人が自分が属する社会集団を守るため、無意識に同調圧力に従ったり、反発したりするため、ソーシャルメディアが現実の人間関係や社会全体の意見分布を歪める「プリズム」として機能していると指摘します。その上で、分極化を解消するために、プリズムの仕組みを理解し、自己の行動を客観視し、他者との建設的な対話を促すための具体的な戦略を提示しています。現実世界と乖離したソーシャルメディアの現状認識を改め、より良いコミュニケーション空間を構築するための指針を示す一冊と言えるでしょう。

著者の情報

著者のクリス・ベイル氏は、フランス領コンゴで幼少期を過ごしたそうです。父は賄賂を拒否したせいで幽閉されたことがあり、著者は「どうして人はここまで憎しみ合えるのだろう」と思うようになりました。アメリカに渡ってから、著者の父はサハラ以南のアフリカで貧困と病気と闘う非営利団体を立ち上げました。その真実と和解への楽観は、著者の悲観とは対照的だったのです。著者は父の利他行動を理解すべく努めます。その頃書き始めたのがこの本なのだそうです。

第一印象

少し前に読んだ本なので第一印象が薄れてしまった感じはありますが、何とか書いていきます。

この本は確かに学術書という見た目ではあるのですが、比較的読みやすい文体なのではないかと思います。少なくとも『“わたし”はどこにあるのか ガザニガ脳科学講義』のように「何度も読み直さないと何を言っているのかわからない引用パート」みたいなものはありません。時間こそかかりましたが、決して読みにくい本ではありませんでした。

本書は「エコーチェンバーは神話である」という衝撃的な内容から始まります。そこから、アメリカにおける民主党派と共和党派のソーシャルメディア上での対立を分析し、インタビューしたり、フィールド実験をしたりして、つまり社会科学の手法で、人々が過激化していくメカニズムを解き明かしていきます。非常に示唆に富んでいるお話の連続で、目が離せませんでした。

かんたんなネタバレ FAQ

ソーシャルメディアは本当に人々の意見を先鋭化させるのですか?

はい、ソーシャルメディアは人々の意見を先鋭化させる可能性があります。本書で紹介されている実験では、反対意見に多く触れた人ほど、自分の意見を先鋭化させる傾向が見られました。これは、反対意見に反論することで、自分の意見をより強く確認しようとする心理が働くためだと考えられています。

なぜ反対意見を見ると、自分の意見を改めるのではなく、守りを固めてしまうのですか?

人間は、自分が所属するグループと異なる意見に対しては、反発したり、攻撃したりすることがあります。これは、自分の所属するグループを守り、自尊心を維持しようとする心理的なメカニズムが働くためです。

ソーシャルメディアはどのようにして私たちの自己認識を歪めるのですか?

ソーシャルメディア上では、私たちは姿や意見を選択的に発信することができます。そして、その発信に対して「いいね」や「コメント」などの反応を得ます。この、自己を呈示して、反応を得て、自己を変えてゆく、ということ自体は人間的な営みです。しかし、ソーシャルメディアはあまりにもそれを簡単にします。そのため、私たちはソーシャルメディア中毒に陥ります。結果的に、作り出された自己呈示は現実の自分自身とはかけ離れる可能性があり、自己認識を歪めることにつながる可能性があります。

過激主義者はソーシャルメディアをどのように利用しますか?

少数ながら、ソーシャルメディアには過激主義者がいます。過激主義者は、ソーシャルメディアを通じて、カルト的な意見集団を形成し、攻撃対象を攻撃します。ソーシャルメディアは、過激主義者が「あたかも関係者全員が戦争状態であるかのような雰囲気」を広め、仲間意識を醸成するための格好の場となっているのです。

なぜ穏健派はソーシャルメディアで発言しにくいのですか?

過激な意見が飛び交うソーシャルメディア上では、穏健派は発言することをためらってしまいがちです。これは、過激派から攻撃されたり、炎上したりすることを恐れているためです。

ソーシャルメディアは問題だらけですね。ソーシャルメディアのアカウントを削除すべきですか?

ソーシャルメディアは、情報収集やコミュニケーションの手段として、私たちの生活に欠かせないものとなっています。そのため、安易にアカウントを削除することは現実的ではありません。

ソーシャルメディアプラットフォームは問題を解決できますか?

ソーシャルメディアプラットフォームは、正直なところ、具体的な取り組みを行っているとは言えません。そもそも、人間の行動を操作するような技術はまだ生まれておらず、プラットフォームだけで問題を解決することは難しいでしょう。

(ただのシリコンバレーのエンジニアが、人の心とか、心と心のつながりとか、理解しているとは思えぬ……だって、本職の心理学者や社会学者ですら頭を悩ませてるんだぜ?)

より良いソーシャルメディアを実現するために私たちができることは?

ありますよ。次の章で詳しく見ていきましょう。

わたしたちができることは?

残念ながら、プラットフォームはあまり頼りにならないようですね。では、私たち自身で何かできることはあるのでしょうか。本書では、そんな「私たちへの処方箋」が紹介されています。

1 認識を歪める仕組みを理解する

まずは、ソーシャルメディア上で意見が歪んでいく仕組みを理解し、それが私たちの思考や行動にどのような影響を与えるのかを認識することが重要です。

具体的なりくつについては、皆さんはもう知ってますね。

補足として、対立の中にいる人は、対立相手への誤解を晴らすことで分極化を軽減できることがあります。

相手は共和党支持者だ。移民とか全員追い出して、壁を作って、温暖化対策を全部やめさせようとしてくるに違いない!なんて思ったりしていませんか?ステレオタイプとひとりの個人が持つ意見は、たいていかけ離れます。なので、相手が共和党支持者だからと言って、今出したもの全部に賛成しているとは限らないんですね。

相手がどんな問題意識を持っていて、どんな意見を持っているのか、つぶさに観察することが重要です。

2 他者から見た自分を観察する

ソーシャルメディア上の自分が、他の人からどのように見えているかを客観的に把握することが重要です。

残念ながら、ソーシャルメディアでの情報発信は誤解を生みやすいです。というか、テキストで何かを伝えるというのは、専門の職業が生まれるレベルで難しいことです。そして、プロでも結構な頻度で間違えます。ニュースの謝罪文を何度も見たことがあるでしょう。

  • 誤解が起きやすいケースとしては、事実情報を発信した時です。意見表明として受け取られることが多々あります。

自分が過激主義者だと思われたくない、だから政治的な議論を全くしない!……ということは、実は一番怖いことです。

  • 穏健派を減らし、過激派が蔓延る空間を助長するため、避けるべきです。

反応(いいねとか)が欲しくてソーシャルメディアをしている人は、自分に反応してくれている人がどのような人なのか確かめてみましょう。

  • 彼らは同じ意見を持っているから、いいねをくれるのでしょうか?
  • それとも、ステータスを得たい過激主義者なのでしょうか?

自分はどのような動機で発信をしているのか考えてみましょう。

  • 献身して真摯に意見を広めたいのでしょうか?
  • 相手をやりこめてステータスを得たいのでしょうか?

自分の投稿が他者にどのような影響を与えるのか分析してみましょう。

  • フォロワーがたくさんいれば、相手をこちら側の意見に変えさせることができるのでしょうか?
  • 自分の投稿は、相手の意見を抑え込んでしまっているでしょうか?
  • 自分の投稿は、自党派のステレオタイプを広めてしまわないでしょうか?
  • 自分の投稿は、相手を説得できているでしょうか?

相手と建設的な対話をすることは、想像以上に容易かもしれません。

3 歪みから脱却して、生産的な対話をする

では対話をしてみましょう……ですが、ちょっと待ってください!

残念ながら、まだ対話には早いです。

いきなりエコーチェンバーから出るのではなく、小さな一歩から始めてみましょう。でなければ、あなたが過激主義者になってしまいます。

1. 相手を探して、観察しよう

  • 受容域に入る人を探してみよう
    • 「受容域」に入る人を探してみましょう。「受容域」というのは、賛同するほどではないけれど、筋は通って見える意見のことです。比較的受け入れやすいかな、という意見ですね。
    • そんなやついるの?って思うじゃないですか。意外といるものですよ。ソーシャルメディア上では過激な意見ばかりが目立ちますが、現実には多くの人が政治的な妥協を望んでいます。
  • 相手を観察して、いちばんの関心ごとをみつけよう
    • 相手を注意深く観察して、いちばんの関心ごと、そしてそれをどのように表現しているかを観察しましょう。
    • たいていの人は穏健派で、党派のステレオタイプとは違う考えを持っています。
  • 相手の世界観に沿うように意見を語ろう
    • これは人間にはとても難しいです。なぜなら、たいていの人は相手の意見を聞かないからです。でも、ここまで読んでくれたみなさんは意欲がある人ですから、他の人より一歩前進しています。勇気をもって練習してください。

2. お互いの共通点を使って対話を始めよう

共通点、それは政治が嫌いなことです。政治に関係ない話から始めて、相手を少しずつ観察しましょう。

3. 自党派に対して見解を深めよう

自党派に対して批判的な、自党派のオピニオンリーダーを見つけましょう。

民主党派だったら、オバマ政権のときも国境警備隊はそれなりに発砲していたとか、そういうことをちゃんと語ってくれる民主党派のオピニオンリーダーを探してみましょう。

分極化を煽るオピニオンリーダーを話題にすることは避けましょう。対話を始めるとき、いきなり「なぜトランプ/バイデンに投票したの?」などと聞くのは最悪です。

4. アイデンティティより先に考えを示そう

自分のプロフィールに党派を思わせる文言を含めていないか気にしてみましょう。相手がステレオタイプな印象を持ってしまいます。

残念ながら、全ての人に有効なわけではないよ

有色人種は偏見にさらされながらアイデンティティを育みます。また、そもそも意見よりアイデンティティを出したい人もいます。なので、これらの処方箋は全ての人に有効というわけではありません。残念ながらね。

プラットフォーマーにできることは?

著者はフィールド実験を通じて、 慎重にデザインされた匿名の会話は、尊重と相互理解の土台作りに貢献する と語っています。

より良いソーシャルメディアを想像してみましょう。トップダウンにまずテーマがあり、共通の目的があるプラットフォームです。

匿名であることが重要です。人種や国籍がわからないからこそ、人は偏見なくやり取りできるのです。

対立相手をやり込めたものにではなく、分極化の軽減に貢献した者にステータスが得られます。

自分の受容域内の意見を持つユーザーがレコメンドされる仕組みがあるといいでしょう。具体的には、両党派からいいねが得られた意見が評価されるアルゴリズムを開発する、とかです(Pol.is とかがいい例ですね。これは 計算民主主義 の試みのひとつで、意見集団どうしのコンセンサスを導き出すためのツールです)。

感想

とても面白い、良い本だと思う。実際にはそんなに偏っていないのに、ソーシャルメディアが偏っているように見せてしまう、という話には納得させられた。実際に行動してみよう、対話してみよう、という話ではだいぶ勇気と慎重さがいるな、と思った(実際そう書いてある)。ソーシャルメディアの設計にも話が及んでいて、実際にそういう議論プラットフォームを作ってみたくもなった。


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